東日本大震災 ボランティア活動の記録@釜石

釜石 東日本大震災 災害ボランティア

「この河川敷が、みなさんの本日の活動場所になります」

釜石ボランティアセンターのスタッフは、釜石市内の中心を横断する甲子川にかかる大渡橋近くの河川敷で、東京から訪れた48人のボランティアたちにそう告げた。

東京からバスに揺られること約7時間。たどり着いたその先で告げられたのは、瓦礫が散乱した、またはヘドロが堆積した見るからに被害の大きな「特別な場所」ではなく、どこにでもありそうで、東京であればもっと荒れている場所はいくらでもある「普通の河川敷」の清掃だった。

そのことはボランティアたちに少なからずショックを与えた。「わざわざ東京から来たのに“誰にでもできる”掃除だなんて、ひょっとして客扱いされているのか?」そんな心の声が聞こえてきてもおかしくなかった。

しかしながら、この「河川の清掃」作業は、ボランティアセンターのスタッフの深い考えがあって私たちに割り当てられた作業だった。清掃終了後このボランティアセンターの判断が正しかったことを、ボランティアたちは自らの「成果」を通して知ることになる。

そして「なぜ、48名の大所帯のボランティアに河川の清掃業務が割り当てられたのか?」という疑問を突き詰めていくと、メディアが伝えきれない被災地の「今」直視しなければならない課題が、私たちの目の前に現れてきたのだった。


被災地「釜石」

岩手県の南東部に位置し新日本製鐵釜石製鉄所として有名な「釜石」。そこが今回のボランティアの活動場所であった。死者806人、行方不明者541人の人的被害と3,723棟の家屋倒壊を被った被災地である(いわて防災ポータル5/4発表)。


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私たちボランティアスタッフを乗せた2台のマイクロバスは、前日宿泊した花巻温泉の旅館から遠野を経由して釜石を目指した。しかし道中の道のりは地震の影響を全く感じることができなかった。
ただ、7~8台に1台の割合で必ず自衛隊の車両とすれ違い、道路脇の至る所に地元の方々が建てられたと思われる、被災地支援に対する感謝の言葉が綴られた立て看板はここが日常のバランスが崩れたエリアであることを私に知らしめた。

釜石 東日本大震災 災害ボランティア

結局、ボランティアセンターが設置された釜石市教育センターまで来ても災害の影響を全く感じることはできなかった。はじめてここが被災地であることを再認識したのは、新日鉄の工場の敷地内にビルの3階ほどの高さまで積み上げられた瓦礫の山を目にしてからだ。

はじめて目の当たりにする「異様」以外に形容できない瓦礫の山。いや釜石で暮らしてきた人びとの暮らしの跡。そして、大渡橋を越えて目の前に広がる釜石の商店街の姿は「被災地」以外の何物でもなかった。

釜石 東日本大震災 災害ボランティア

ボランティア活動終了後雨が降っていたこともあり、ボランティアセンターの計らいでバスに乗って市街地を回らせていただいた。

津波によって破壊され尽くした光景を目の当たりにしても悲惨な気分にはならなかった。釜石には遠い親戚がおり親の話では未だに連絡が取れないらしい。祖父・祖母の葬式の際に会った程度の間柄だが親族は親族。当然哀しみはある。

釜石 東日本大震災 災害ボランティア

ただそれとは別に1つはあまりに被害が大きすぎて目の前の光景が自分には許容できずCG映像の様にしか見えなかったこと、そして人間の力ではどうすることもできない津波による被害に哀しみに暮れるよりも、今そしてこれから確実に「やらなければならないこと」の存在を、ボランティア活動を通して再認識したことで「過ぎたこと」として見ていたからかもしれない。

ただし単に覚めた気分でいたわけではなく、バスからその光景を眺めている間ひたすら「負けない」ということだけを念じていたことはここで断っておきたいと思う。

見えない被害

河川敷は汚れているように見えなかった。ただそれは表面しか見ていないからだ。

1~2センチ程度で良い、少しでも地面を削るとありとあらゆるものが地面から出てきた。
ぬいぐるみ、絵本の表紙、ドラゴンボールの単行本、宗教の教典、スーパーファミコンのドンキーコングのカセット、米米CLUBのライブビデオのVHSテープ、昭和シェル(株)アベキの釜石市場前SSの伝票、女性ものシャツ、レースカーテン、サイドミラーか何か鏡であったことが分かる破片、そして写真。すべてが誰かの日常を形成し、誰かの記憶や思い出の一部を構成していたことは想像に難くない。

釜石 東日本大震災 災害ボランティア

そして、もう1つ私は表面だけに捕らわれ見逃している重大な点に気がついた。ここは自衛隊や地元の方々が既に作業を行った場所である。つまり、ここにも806人のご遺体のうちの一部がそこかしこにあったはずなのだ。

河川敷には、約10キロ離れていた場所で行われていたキャビア生産を目的に養殖されていたチョウザメの死骸がいくつも転がり強烈な臭いを放っていた。震災から1ヶ月以上経ち10分でもあれば終えることができる作業を何故被災地の方はできないのだろうと不思議に思っていた。

しかし、ここにそれまで存在していた「何か」と比較すれば、無視してしまうのも致し方ないと悟った。そして同時に自分の浅はかさを深く反省した。

海から来た土砂

作業を開始して1時間が過ぎた頃、私たちの声や作業の音が気になったのだろう、川沿いに住むお婆さんが自宅から出てきた。

(本当は東北弁で)「どちらからいらっしゃったんですか?」と私たちに声を掛けた。私たちは「東京からボランティアでやって来たこと」や「河川掃除という活動内容」を説明した。そして、ボランティアメンバーの1人が機転を利かせ、お婆さんに「何かお困りのことはないですか?私たちでできることであればお手伝いしますよ」とたずねた。

「そういうことであれば」と、そのお婆さんは自宅の前にある鉄のフタがされた溝を指さし、「ここにヘドロがたまって流れなくなってしまい、雨が降ると家の前に非常に大きな水たまりができてしまう。家の前を通る車がその水をはね家に掛かって困っている」と語った。

どういう理由か(なまりがきつくて理解できなかったが)、隣の家は役所がやってきて機械を使ってヘドロの除去作業を行い問題が解決しているらしい。確かに隣と比較して明らかに60cm以上のヘドロが堆積している様に見えた。

私の使用していたショベルが小さなサイズだったということもあり、仲間内で相談してこの作業は私が担当することになった。

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初めの2cm程度は確かにヘドロが溜まっていたが、そこからはゴツゴツとした5~20cm程度の岩がぎっしりと詰まっていることが分かった。ショベルを入れようにも硬すぎて入らない。仕方が無いので様子を見に外に出てきたお婆さんに「すみません。小さなスコップか何かありませんか?」と尋ねた。

「ごめんね。ぜんぶ流されちゃった」

あまりに軽率な質問だった。考えれば分かるだろ。バカかお前は」心の中で私は自分を戒めた。ひどく落ち込んだ気分になった。

だが「それでも」といってそのお婆さんは、幅10cmにも満たない半円型のボロボロに錆びた熊手を私に差し出してくれた。私はそれをありがたく受取り結果で先ほどの非礼を詫びようと心に決めて再び作業に戻った。

排水溝に詰まった土砂

2時間ほど作業を続け根気よく岩を取り除き土嚢に詰める作業を繰り返した。ちょうど上の写真がその頃の状態を収めた写真だ。湿り気のある場所は1つひとつ岩を取り除いていくことで、何とか掘り進めることができたが、右上部分の様にヘドロが乾いてしまった箇所は、まるでコンクリートのようにびくともしない。
結局下側を掘り進めた上で、体重を掛けると少し反応があったので安全靴を履いた足で思いっきり蹴ると見事に取れた。

下水管に詰まった土砂

結局、身長180cmの私が手を伸ばしても届かなくなるところまで、土嚢袋にして約7~8袋分のがれきを取り除いたところで、この作業を終えることにした。途中、まるで岩場の地面を掘っている気分に陥ったため「もしかしてお婆さんにだまされて新しく穴を掘らされている?」という疑いの気持ちが生まれたが、どこまで掘っても出てくるのは独特のヘドロ特有の異臭を放つがれきだったっことから、その気持ちは簡単に否定することができた。

そうなるとこのがれきは津波の力でここまで運ばれたことになる。おそらく周辺一帯の下水管が同様にがれきで詰まっているだろう。本来であればお婆さんの隣のお宅のように地域の行政が対応すべき内容だが、おそらく行政はそれどころではないだろう。

また、「被災者が自分でやれば良い」という声もあるだろうが、平日は被災者の方々も仕事であったり(駅の向こう側は被災地ではない)、復興に向けて例えば漁場の復旧作業など生活を取り戻すために必要な作業をされている。

その上、自宅が浸水で済んだ家は、この日もその光景を見かけたが、使えなくなった家財道具を自宅の外に運び出し清掃作業を行わなければならない。3月11日から1ヶ月以上経つというのに。これが被災地の現実なのか。

結局3時間以上作業を続き、とりあえず意地で隣の家よりは深い所まで掘ることができた。様子を見に来たお婆さんは「まだ作業を続けてくださっているとは」、「こんなにきれいにしていただいて」と何度も私にお礼を言ってくださった。私は単に作業が楽しくなってやっていただけなのに何度もお礼を言われることが、とにかく気恥ずかしかった。

その後のお婆さんの話によると、実は自宅も床上浸水をしていて水を吸った畳の廃棄作業や室内の庭のヘドロ掃除など色々と大変な作業があり、家族でも悩んでいるらしい。

「そういう作業こそボランティアに手伝わせると良いですよ。ボランティアセンターに一度相談してください」と伝えると、「わかりました。息子と一度相談してみます」と話してくださった。
ボランティアがニーズ聞き取り作業を行っているはずなのだが、漫然と「何かお困りですか?」ではなくボランティアのサービスメニュー等を提示しながら聞き取りを行うなどの工夫を行うことで、もっと被災者とボランティアが効率的に繋がるように思えた。

こうして私のはじめてのボランティア活動は幕を下ろした。

被災地は貴方を必要としている

作業終了後、自分たちの仕事の成果を目の当たりにして私たちは全員驚いた。ほとんど汚れていないと思っていたはずの河川敷が見違えるようにきれいになっていたからだ。48人という数の力を、私たちは自らが出した結果で知ることができた。

今回、ボランティアセンターが私たちに河川敷の掃除を依頼したのは、「この甲子川の河川敷が釜石市民にとってのシンボルだから」という理由だった。

釜石の市街地に出入りする為に毎日人びとが利用するこの大渡橋が清掃されることで、釜石の人たちがきっと復興を実感できるからというボランティアセンターの想いがあってのことだった。

北上展勝地さくらまつり

実際に作業を終えるまで、被災地の現実を正しく理解するまで、私も凄惨な被災地で肉体的・精神的にも負荷の掛かる作業を全力でこなしてこそボランティアであると思い込んでいた。でも本当に必要とされる作業は「町内会清掃」レベルの作業に過ぎない。

ボランティアは自衛隊ではない。救命士でもなく警察官でもない。(一部その様な人もいるが)プロの土建屋に比べればあまりに仕事が遅く無力な存在だ。
だからこそボランティアは、1人ひとりの小さな力を束ね合せて、数の力で被災地に貢献しなければならない。

そして被災地では、今まさに数多くの小さな力を必要としている。

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誰でもできる作業、でも現地の方々が手を回すことができない作業。本来であれば10分で終わる作業。自衛隊や行政が手を回すことができない作業が、被災地には無数に存在している。

そうした小さな作業を実行し成果を1つひとつ地道に積み上げていくことが、日常を取り戻す為の道となり、被災地が復旧そして復興へと繋がっていくのである。

ヘドロや魚介類の死骸は、感染症の発生など被災地の衛生管理面に大きな影響を与えている。
梅雨が過ぎ夏を迎えこれからどんどん気温が上がってくることを考えると、一刻も早くそ清掃を行わなければならないのは明白だ。

これらの清掃作業は自衛隊でなければできないだろうか?行政が負担して税金を使って処理しなければならない作業だろうか?私はそうは思わない。

力のある者が必要なのではない。力は無いかもしれない、だが真心のある無数の老若男女こそがいま必要とされているのだ。

山の神温泉 幸迎館

宿に戻り、夕食時に口にしたビールは本当に美味かった。これ以上誰からも口にすることを誰からも咎めなれない美味いビールはないだろう。その味をもう一度味わう為だけでも、私はボランティアに参加する理由があると思う。

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