この時代に生まれた者の責任として、この作品を耳にし、再び前へと歩みださなければならない。
かつて、60年、70年、80年そして90年代と音楽はテクノロジーとグローバリズム、そして精神性の3つが三位一体となって進化を続けていった。
だが、メディアの進歩によって大衆性が確立されることによって精神性は退化を始め、冷戦以降経済が世界を1つにし、全世界の文化圏にマクドナルドが必ずあるように、グローバリズムという大きな波が世界の多様な民族・文化を飲み込んでしまった。そして、ここ20年で最も進歩を遂げたテクノロジーは、21世紀を迎えると共にその歩みはスピードを失い、オーディエンスそして誰よりアーティスト自身さえもかつてテクノロジーから感じえていた興奮を失って久しい。
だが、Battles の中心メンバーでもあるタイヨンダイ・ブラクストンのこのセカンドソロアルバム「セントラル・マーケット」は、このどうしようもない音楽の世界にまだ可能性があることを、その可能性すら信じられなくなっていた私たちに、理想論だけでなく具体的な進歩性を改めす形で証明した大傑作である。
タイヨンダイ自身も語るように現代のオーケストラとも言えるこの音楽は、過去からの延長線上にありつつも間違いなくこれまでになかった音楽であり、同時にそれは疑いなく進歩を示すものである。
ただし、これはある一定の思想・精神・技術面での充実がなければ果たせ得ない境地の音楽であり、誰にしも可能な音楽ではないが、「オーケストラとも言える」と述べたようにただ単にアカデミックで聴くものを選ぶ音楽ではない、そして何よりもクールな音が鳴っていること自体が奇跡だ。
そのことがうれしくて・うれしくて・うれしくて、最初の数回はこの作品を耳にしながら涙を流していた。
Central Market(セントラル・マーケット)
タイヨンダイ・ブラクストン
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